公文堂のシャドーさん

kohbundou2011-03-09

 古書月報(東京古書組合機関誌)の昨年十二月号に、古書往来座さんが「シャドーさん」のことを書いておられた。店が静かな状態にあるとき、視界のすみに入ってきたり気配を感じる不思議な存在。往来座さんは「長く集中して何かの作業をした後などの時間の切れ目によく逢う気がする」そうだが、私は開店作業中によくお会いする。うちのシャドーさんは文芸書の棚の前がお好きなようだ。
 何のイメージを反映させたのか、いつも白い半袖シャツを来ているような気がするので、私は「夏服の人」と呼んでいる。一度思い切って「何かお探しですか」と声を掛けようと思ったが、眼をそちらに動かせば見えなくなってしまうし、本当に返事をされてしまったりもう会えなくなってしまっても寂しいので思い留まった。
 いま帳場から文芸書の棚を見てももちろん誰もいない。逢いたいときには会えない、そんな公文堂の夏服の人。