市場の品物から 5

この回で取り上げたのは、一葉齋広景の浮世絵です。
江戸時代の後期に流行した見世物のうち「豹」が描かれています。



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(口上風に)さてさて此度の注目は、一葉齋広景の、描きます豹の見世物じゃ。万延元年両国に「此度外国より豹といえる化物持来り」。豹と申すは虎の雌なり、何じゃ嘘偽りか、イヤ万延元年七月の、両国見世物興行で、豹は虎の雌だと語られし。ソリャ見も知らぬ、聞きも知らない生き物を、説明するが喩えなり。身丈は四尺鶏狗の類を食すとか。人集まれば鳥放ち、鳥を喰らうを見物す。


 
 珍獣の見世物の記録は古く、近世初期まで遡ります。ヒクイドリ、オウム、インコ、ヒトコブラクダ、アザラシ、そして万延元年(一八六〇年)の七月十一日、アメリカから豹が横浜港へ到着しました。続いて虎が、また象も来日して一九八三年には両国で興行が打たれています。
 興味深いのはそれらがただの珍しい生き物として紹介されていないところです。みな何かの霊験を持たされています。たとえばアザラシは「無病延命にして所願円満」、ラクダは「おらんだ人は駱駝の図をもつて落雷の守」「疱瘡払い」に、象は「一度此霊獣を見る者は七難を即滅し七福を生」し、豹も「悪病に犯さるる愁なく」とされて、その利益を少しでも得ようと引き札や浮世絵に表されました。
 この豹が公開されたのは庚申の年で、あければ辛酉。広景のこの浮世絵では、「来年は酉の年、其の酉が…酉かえらんとする處後より虎まつたまつたと云其内に」との口上の下に、鶏をくわえた豹の姿が描かれます。この強さが悪病にかからぬ力なのでしょうか。



 二十年前見世物小屋で見たものは、小人に大蛇に火を噴くおじさん蛇を鼻から通す人。想像よりも穏やかで、高校生でも拍子抜け。せっかくお金を払うなら、見たことないもの見てみたい。パンダごときじゃもの足りぬ。豹は絵なれど刺激は上々、見世物見るなら遠い昔の眼に限る。
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【参考図書】「見世物雑志」「江戸の大衆芸能」「図説庶民芸能 江戸の見世物」



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文中にも書きましたが、見世物になったこの豹は、「豹」ではなく江戸の人々の耳に馴染んだ「虎」として紹介されたこともあったそうです。
ま、これも何かのご縁ってことで。