国家権力によるセクシャルハラスメント

kohbundou2011-01-11

【この話、以前にどこかで書いたような気もします。既出でしたらごめんなさい】



これはまだ、日野店が普通の古本屋の形態を保っていた、私がまだ十代の頃のお話です。
私は一人で店番をしながら帳場で本の値札貼りをしていました。お客さんが入ってきたと思ったら、珍しい男女の組み合わせ。五十くらいの男性と、二十代後半とおぼしき女性の二人です。
「いらっしゃいませ」
私の声に女性が軽く頭を下げました。
男性はせかせかとした様子で私の前にやってきて、
「警察の者です」
と手帳を広げて差し出し、机の両脇に積んであった本の山にそれぞれの手を乗せ、私の方に身を乗り出して、えらそうな声で言いました。
「あのさ、あなたみたいなお嬢さんに聞くのはあれなんだけど、ここって大人のおもちゃとか売ってる?」
私は一瞬声を失いました。この人、刑事なの?突然何を言ってるの?
「いえね、実は事件の参考人のアリバイを調べているんだけど、このあたりの大人のおもちゃ屋にいたって言うんで」
このおっさんは古本屋と大人のおもちゃ屋の区別もつかんのか。それともちょっとでも関連がありそうだったら何でも聞いてみるものなのか。とちょっと苛ついたものの、なんせ相手が相手なので善良な市民のフリをする私。
「置いてませんけど…」
わざと視線を外してみたりして恥じらう演技のつもり。逆に不審だったかもしれません。
「じゃあこの近くに大人のおもちゃ屋みたいなのってないかな」
何なのさっきからこのなれなれしい口調は。同じノリで「あるある、あのねー、『アダルトグッズ』ってのぼりが立ってるからすぐ分かるよ」などと返してやりたかったのですが、そこは善良な市民なので自重して答えました。
「さあ、ちょっと…」
私は日野店がある場所で生まれ育ちました。でもそんな店は見たことも聞いたこともありません。人一倍好奇心の強い私が知らないのですから、おそらく本当に存在しないはずです。
刑事さんはあっさり「あ、そうですか」と言って帳場前を離れました。申し訳なさそうに再び軽く頭を下げる女性。
嵐が去って、何だったのかしら今のは、と冷静になるうちに段々腹が立ってきました。あれが人にものを尋ねる態度か?あのひと、何回『大人のおもちゃ』って言った?
数年後、古本屋とは違う仕事で「大人のおもちゃ屋」「大人のおもちゃ製造会社の営業」の方とお話しすることがあったのですが、おもちゃ屋さんはけっこうお客さんの顔を見ているので驚きました。好む道具が多種多様なのでお客さんに説明したり話かけたりすることも多く、その方は会話しない初めてのお客さんのこともかえって覚えていたりするのだそうです。
あのときの事件はどんな内容でどうなったのでしょうか。そして近所に大人のおもちゃ屋はあったのでしょうか。今となっては全てが謎のままです。もし次の機会があったらもう少し楽しんでみたいと思います。